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東京高等裁判所 昭和47年(行ケ)16号 判決 1972年9月01日

原告

臼井静子

右訴訟代理人

南一清

弁護士

大橋正爾

被告

特許庁長官

三宅幸夫

右指定代理人

渡辺清秀

外一名

主文

特許庁が、昭和四六年一二月三日、同庁昭和四三年審判第八、四二〇号事件においてした、昭和四四年一二月三日付の補正の却下の決定は取り消す。

訴訟費用は、被告の負担とする。

事実

第一  当事者の求めた裁判<略>

第二  請求の原因

原告訴訟代理人は、本訴請求の原因として、次のとおり述べた。

一  特許庁における手続の経緯

原告は、昭和四〇年二月二六日、名称を「連結伝票」とする考案につき、実用新案の登録出願をしたが、昭和四三年八月一四日拒絶査定を受けたので、これを不服として、同年一一月二七日審判を請求し、昭和四三年審判第八、四二〇号事件として審理され、その審判係属中の昭和四四年一二月三日、考案の趣旨をより明らかにすること等のため、手続補正書を提出したところ、昭和四六年一二月三日、「昭和四四年一二月三日付の補正は、却下する。」旨の決定があり、その謄本は、昭和四七年二月二日原告に送達された。

二  本件補正の却下決定の理由

本件補正は、実用新案登録請求の範囲を補正して、「中葉紙(2)を複数枚組合せて一組としたものをならべ」という構成を本願考案の必須の要件としているが、この構成は、願書に最初に添付した明細書または図面(以下「当初の明細書」という。)に何ら記載がなく、かつ、自明な事項とも認められないから、本件補正は当初の明細書の要旨を変更するものと認められ、したがつて、本件補正は、実用新案法第四一条ならびに特許法第一五九条および第五三条第一項の規定により却下すべきものである。<中略>

理由

一  (争いのない事実)<略>

(本件補正の却下決定を取り消すべき事由の有無について)

二  当裁判所は、次に説示するとおり、

本件補正は当初の明細書の要旨を変更するものではなく、これと異なる認定をした本件補正の却下決定は、違法であり取り消すべきものと判断する。

本件補正により実用新案登録請求の範囲の記載が原告主張のとおり訂正されたこと、および当初の明細書の「考案の詳細な説明」の欄に、「またこの伝票は(1)(2)(3)の各伝票の枚数を加減することによつて……殆んどの事務に効果的に応用できる特徴を有する」旨の記載があることは当事者間に争いがないところ、当初の明細書の「考案の詳細な説明」の欄第二文には、本願考案の実施例の説明として、「下葉紙(1)に伝票片の中葉紙(2)を鎧重ね状に一定間隔ずつずらして並べ……(1)(2)(3)或は(1)(2)又は(2)(3)を同時に複写できるようにしたものである。そして記入後点線(B)にそつて、適当な器具例えば鋏で切断するだけで、すべての伝票が一挙に分離し、それを整理して転記等の手数を経ず、簡便に処理できる。」との記載があり、この第二文の記載に続けて第三文として、前段認定の「またこの連結伝票は(1)(2)(3)の各伝票の枚数を加減すること……」との記載がされていることを認めることができ、右認定の当初の明細書の文章の構成全体および表現態様に徴すると、第三文の記載は、第二文記載とは別個の内容(構成、効果)を表現したものであることは明らかであり、第二文にいう「中葉紙(2)を鎧重ね状に一定間隔ずつずらして並べ」るとは、「鎧重ね状」の字義からして、中葉紙を複数枚一枚ずつずらして並べることを意味するから、第三文にいう、連結伝票の「(1)(2)(3)の各伝票の枚数を加減する」ということは、上葉紙(1)、下葉紙(3)をそれぞれ複数枚重合することのほか、中葉紙(2)については、第二文に示すように、一枚ずつ鎧重ね状に並べるのではなく、複数枚重合するよう組み合わせて一組とし、これを鎧重ね状に並べることを意味するものというべきである。

してみれば、本件補正による実用新案登録請求の範囲中の「中葉紙(2)を複数枚組合せて一組としたものをならべ」るとの技術的構成は、当初の明細書に記載された事項というべく、これと異なり、本件補正の却下決定が当初の明細書に上記の技術的構成が記載されていないと認定したのは誤りというほかない。

(むすび)

三  以上のとおり、その主張の点に違法のあることを理由に本件補正の却下決定の取消しを求める原告の本訴請求は、理由があるものというべきである。よつて、これを認容することとし、訴訟費用の負担について、行政事件訴訟法第七条および民事訴訟法第八九条を適用し、主文のとおり判決する。

(三宅正雄 武居二郎 友納治夫)

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